あのギタリスト
高校3年生の夏の終わり、念願のドラマーの加入が決まり、後はギターがいればという状態で、ある日ボーカルのOがベースのじゃがいも少年の所に「あのギターのMが入ってくれるかもしれない!」と興奮気味に駆け込んで来ました。
あのギターMというのは、当時の神戸の高校生バンドマン達の間では知らぬ者はいないぐらいのカッコいいバンドBのリーダー的存在で、中学からその存在は異彩を放ち、そのバンドの名前は別格として轟いていました。
そんな伝説のバンドBがどうやら最近解散したらしく、ギタリストMとコンタクトを取ったOがすかさず話を持ちかけたのでした。
とある日曜日、ギターMの自宅に話をしに行くことに決まり、じゃがいも少年とOはJR六甲道駅でギターのMと待ち合わせしました。
現れたMは革ジャンにスリムジーンズにラバーソールを履き、髪は後ろで無造作に束ね、耳には十字架のデザインのピアスをしており、正にロッカーのお手本的な出立ちで登場しました。
Mは開口一番、ビビるじゃがいも少年に「ベースの子やろ?」と気さくに話しかけ、3人はMの自宅に向かいます。Mの部屋には高そうなギターが数本並び、Mは自分のイスに座るや否や立てかけてあるギターの内のレスポールを手に取り、呼吸をするかの様にいじり出しました。
Oとじゃがいも少年は自分達で作ったオリジナル曲のカラオケテープをMに聴かせたものの、断られるのが怖くてなかなか一緒にバンドをやろうと言い出せません。
オリジナルを3曲ほど聴きながらMはおもむろにテープに合わせてギターを弾き始め、「こんな感じでもえーんちゃうん?」と言って即席アレンジを始めました。
その様子に「高校生ギタリストとは格が違う!」と感心&緊張するじゃがいも少年。すかさずOが「一緒にやらへん?」と本題に切り込むと、Mはあっさり「えーよ」
こうしてギターの加入も決まり、新生バンドが動き始めた高校3年の冬でした。